2022年12月期の振り返りと今期の重点施策
サステナブル・ツーリズムを中心とする
中長期的な戦略について
社長インタビュー 代表取締役 二木 渉
物価上昇や円安、不安定な国際情勢の影響で海外旅行者数の伸びはまだ緩慢なものの、インバウンドと国内旅行者数は急増した2022年12月期。1年間の成果と、さらなる回復が見込める今期の重点施策、サステナブル・ツーリズムを中心とする中長期的な戦略について二木渉社長に聞きました。
すべての事業で営業収益が回復
国内旅行は海外旅行と競合する規模に成長
国内旅行は日本人の延べ宿泊者数が2019年を上回る水準で推移しています。年間予約数も前年比226%と大幅に拡大しました。インバウンドはコロナ禍で定められた入国者数の上限が撤廃された10月以降、リンクティビティのプラットフォームを通じた鉄道・施設チケットの予約取扱額が急激に伸長し、販売元の契約者数も前年比で倍増しました。
ハワイ専門の現地体験ツアー予約サイト「Hawaii
Activities」はワクチン接種が始まった2021年から回復傾向にありましたが、新たなプロモーション施策の成功、同業他社の撤退等により完全に回復。グローバル市場でのサバイバルを制したことでサービスに対する信頼度は以前より高まっています。
海外旅行は、出国制限の緩和等により日本人の海外渡航者数は大きく増加。年間予約数も前年比12.4倍と大幅に回復しました。しかし、直近の回復率は想定を下回っています。これは慎重で我慢強い国民性によるものと分析していますが、もう1つの要因としては国内市場の成長が挙げられます。長引くコロナ禍において多くの旅行者が日本の魅力を再発見したことで市場が拡大し、海外市場と競合する規模になってきたのです。今後はそれを踏まえて双方の土台を強化する必要があると実感した1年でした。
2019年度以来となる業績予測を開示
インバウンドの市場回復率は59-68%に設定
今回、2019年度以来となる業績予測を開示いたしました。国内旅行、インバウンド(リンクティビティ)、グローバル(Hawaii Activities)が海外旅行の停滞をカバーできる事業に成長したこと、不測の事態に直面したときの対策を速やかに計画・実行できる組織になったことがその理由です。
具体的な市場回復率の見通し(2019年比)は、海外旅行は47-58%。国内旅行は100%。インバウンド(リンクティビティ)は59-68%。グローバル(Hawaii
Activities)は100%に設定しています。訪日旅行者の伸び率を見るとインバウンドの回復率はもっと高くてもよいのでは、と思われるかもしれませんが、不安定な国際情勢の影響や人手不足等の問題もあり、マーケットは依然として不透明。明るい材料はたくさんあるものの、まだまだ楽観はできないと分析しています。
2022年12月期通期決算説明資料はこちら
ファンの育成とインバウンド需要の取り込み
自治体・行政と連携した観光開発・DX化の推進
今期の重点施策について、ここでは3つご説明します。
1つはファンの育成。2026年までにOTA事業にてファン(当社サービスを年に2回以上利用していただく会員)100万人の会員組織を目指します。目的は既存会員のアクティブ化と新規ファンの獲得。そのためにお客さまとのタッチポイントを拡大します。その一環として、ことし1月にはアソビュー社との業務提携を発表。3月には博物館や美術館など世界の魅力的な観光・文化施設をカバーするオランダのTiqets(チケッツ)社との提携強化を発表しました。ここから220万人を超えるベルトラ会員の皆さまに新たな体験商品の提供を加速していきます。
2つめは、国の積極的な投資によってさらに拡大が見込まれるインバウンド需要の取り込みです。当社では年平均約60%の回復率を基本シナリオとしていますが、市場回復の波に先行してしっかりと需要を取り込んでいきます。その軸はリンクティビティのプラットフォーム事業です。交通機関の1日パスや新幹線のWeb予約サービスと観光施設の入場チケットをセットで販売できる発券プラットフォームのカテゴリーと販売チャネルを拡大。市場規模を広げて成長を加速させます。
そして3つめが自治体・行政との連携による観光開発・DX化です。目的は、新たな観光資源の開発と体験機会の創出。そのために中長期的に新たなコンテンツの開発と育成を行い、MaaSを中心としたITソリューションの導入をサポートします。地方に多くの人を集められる「心ゆさぶる体験」は、生み出さないことには育ちません。その想いを自治体・行政と共有して収益向上を目指していきます。
海外旅行は回復期に入っているものの、コロナ禍で旅行業界を離れたパートナーも多く、日本人の旅行者向けに新しいサービスを立ち上げても収益化が難しい状況です。とはいえ、このままではベルトラが提供できるサービスは増えず、アフターコロナの新たな旅行スタイルを確立することもできません。ですから今期はまず、誰もいなくなった市場に希望を見出して立ち上がってくれた人たちと繋がり、新たなスタートを切りたいと思っています。
地球環境とそこに暮らす人たちに配慮した成長戦略で
サステナブル・ツーリズムのロールモデルを目指す
中長期的な目標は、体験・アクティビティ分野でサステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)をリードする企業になること。従来のステークホルダーだけではなく、地球環境とそこに暮らす人たちにも配慮した成長戦略を考え、実行します。
関連する動きとしてはCOP15の環境回復宣言(2030年までに生物多様性の損失を回復させる)があり、当社は2022年4月、この宣言に基づいて環境省と「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を締結。国立公園の魅力の発信、国立公園で体験できるアクティビティの拡充、自然との共存・平和を啓蒙する「ピースツーリズム」の推進をスタートしました。
また2022年11月には日本のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)としては初めてGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)に加盟しました。その根底にあるのは、以前の形に戻したいという願いではなく、長期的な視野で企業としての社会的責任を果たしていく覚悟です。旅行者が自然環境の改善・回復に貢献できるコンテンツ。障がいのある方が楽しめるアクティビティ。過疎化が進む地方のまちに人を集めるしくみ。これらの開発・提供を成長戦略に組み込み、実行することによってサステナブル・ツーリズムのロールモデルを目指します。
全社的な方向性と目的意識については、既に開始しているサステナブル・ツーリズムとユニバーサル(バリアフリー)ツーリズムの社内研修とあわせた明文化を予定しています。今後のテーマは、環境や社会問題の解決に貢献できるツーリズムをいかにしてつくり上げていくか。社員の関心は高く、熱心に取り組んでくれているので、揺るぎない土台を構築できると思います。
「心ゆさぶる体験」に出会うための
あらゆる手段を提供して持続的な成長を続けます
コロナ禍においては株主の皆さま、ベルトラのファンでいてくださる皆さまにご心配をおかけいたしましたが、旅行業界は着実に勢いを取り戻しており、2019年との比較で海外旅行市場は約7割、国内旅行市場は約9割まで回復しました。ベルトラにとって2023年は本格的な回復期です。コロナ禍で学んだことを活かして「心ゆさぶる体験」に出会うためのあらゆる手段を提供し、持続的な成長を続けてまいりますので、株主の皆さまには引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
After Talk
ベルトラが考えるユニバーサルツーリズム
~障がいを持つ旅行者のためにやるべきこと~
社内研修でユニバーサル(バリアフリー)ツーリズムの講義をお願いしている方とは、少し珍しい出会いでした。静岡県・三保松原の知人を訪ねた際、現地で出会った観光行政をしている方から、是非父と会ってくれませんかと言われてお話を伺ったところ、観光専門のシンクタンクでユニバーサルツーリズムに長年関わり、今は独立して専門の法人を設立し取り組んでおられるとのことでした。ちょうどバリアフリーを含めたサステナブルなツーリズムを収益化する手段について検討していた時期でしたので、「是非ベルトラに来て、あなたの知識と経験を社員に伝えてくれませんか」とお願いしました。
コロナ禍でオンライン体験「オンラインアカデミー」を開始したことも、この課題に目を向けるきっかけになりました。これまで我々がサービスを提供してこなかった、そもそも外出が難しい皆さんにも非日常の楽しさを届けたい。そんな想いを込めてスタートしたこのサービスが、ユニバーサルツーリズムにも目を向けるきっかけになりました。
ユニバーサルツーリズムを推進する上で最優先であり最大の課題はトイレです。海外、特にアジア諸国では海外旅行客を受け入れるホテルにすらユニバーサルトイレが整備されていない所もあるので道のりは険しいですが、そこがクリアできればマーケットとして成立します。パートナーにも積極的に働きかけて、いつかは「ベルトラのツアーにはユニバーサルトイレが付いていますので車椅子の方も安心です」とアピールできるようになりたいですね。
積み重ねた知識と経験。
社外取締役だからこそ見えるベルトラとは。
社外取締役インタビュー
2019年に社外取締役に就任したViator(ビアター)社創設者のカスバート・ロドニー氏。社外から見たベルトラの魅力とこれから期待されることについて聞きました。
自身について
社外取締役就任のきっかけ
Viator社設立前はWebサイトを開発する事業に携わっていました。その関係でアメリカのSabre社より旅行代理店が世界中のツアーや観光商品を予約できるシステムを開発してほしいという依頼を受けたのですが、納品直前という段階でSabre社の方針が変更され、企画は立ち消えとなりました。開発したシステムはそのまま私たちに譲渡され旅行業界に参入した、という非常に珍しい経緯で1995年、シドニーでViator社を設立しました。
ベルトラの創業者と出会ったのは創業間もない頃で、当初から友人としての付き合いがありました。2014年にViator社がTripAdvisorに売却され私がその経営に携わらなくなったとき、ベルトラが私に協力を求めてきたのは、ごく自然な成り行きだったように思います。とはいえ、声を掛けてもらったからといって、ベルトラ社員の皆さんを尊敬していなければ依頼を受けることはなかったでしょう。ベルトラの社員はお客さまのことを深く考え、提供するすべてのサービスがポジティブな体験となるよう、常に努力していることがよくわかります。お客さまの満足度にまずはフォーカスし、価値を創出することが最終的に利益にも繋がっていく。それがベルトラです。
社外取締役から見たベルトラの強み
互いのビジネスに集中できる協力関係を築く
ツアーオペレーターの大半は、例えば観光ツアーや料理教室など、自分たちが提供する体験についての知見は非常に優れています。一方で、オンラインマーケティングに対しては得意とはしていません。オペレーターが本業から離れて顧客獲得に注力することによって、本来あるべきコアビジネスから焦点を外してしまうということを何度も見てきました。私の考えでは、オペレーターは自社の強みに集中し、マーケティングはベルトラのような会社に任せるべきだと思っています。日本人旅行者に特化したベルトラにはその知識も、経験も、能力もあるからです。そうすることで、お客さまは自分にぴったりなツアーを簡単にオンラインで見つけることができ、オペレーターは自社の強みであるツアーの内容にフォーカスができます。このような形でベルトラ・オペレーター・お客さまの三者間でのシナジーが生まれ、素晴らしい体験が生まれると考えています。
これからのベルトラについて
お客さま満足度の向上がカギとなる
日本人旅行者に向けた体験商品のオンライン予約市場において、ベルトラはより大きなシェアを獲得していくものと信じています。お客さまからの口コミと、新たにユニークな商品を開発する社員の努力によって、自然とこの分野で支配的なプレーヤーに成長することでしょう。ベルトラは現地でのツアーやアクティビティに特化しており、それが顧客満足に繋がっています。この顧客満足の輪は今後も自然な形で拡大していくと考えています。例えばオーストラリアに旅行に行かれたお客さまが日本に戻ったとき、ベルトラのサービスを利用した経験や、オーストラリアでの素晴らしい体験について家族や友人に話します。どういうサービスを使ったのか、どういう経験をしたのかという会話をする中で、自然とシェアが広がっていくのです。カギはハッピーなお客さま、顧客満足度だと思っています。
中長期的な発展のために
旅行業界で勝ち残るために
コロナ禍で自由に旅ができない状況が続く中で、いかに旅というものが自身の人生について重要だったか、と感じた方々も多かったかと思います。旅行が可能になった今、その旅のクオリティーを重要視する旅行者が増えているように感じます。単に移動をすること、その旅を問題なく終えることだけではなく、何らかの意味や価値を見出すことに重きを置くようになってきています。その意味では、誰に旅をサポートしてもらうのか、フライトや宿泊、そして体験のパートナーを誰に選ぶのかをお客さまはより重要視するようになるでしょう。そういったクオリティーの高い体験を提供できる会社が今後、生き残ると考えています。
自身の経験とアイデンティティを活かし
社外取締役としてベルトラの発展に貢献したい
日本企業が多くの社外取締役を迎えることは、非常にポジティブなことだと思っています。例えば欧米やオーストラリアの取締役の構成を見ても、執行役員は会社からは大体1人、他のボードメンバーはすべて外部です。偉大な企業になるために必要な知識のすべてが企業の中に備わっているわけではありません。外部取締役はそのキャリアの中で、さまざまなチャレンジや問題を経験してきています。
私自身もViator社が成長し、マーケットリーダーとなった長い年月の間に、多くの教訓を得ることができました。すべてがベルトラに当てはまるわけではありませんが、問題を克服するためには何が必要で、どのように意思決定を進めていくべきか、アドバイスを提供することができます。またオーストラリア人は自分が考えていることをオープンに発言します。自分の考えやアイデアは喜んでシェアしますし、間違っていると思うこともはっきり言える文化です。他の役員も、私の率直さを評価してくれていますし、刺激され発言しやすくなることで、よりよい会社の発展へと繋がれば良いと考えています。
カスバート・ロドニー
Rod Cuthbert
ベルトラ株式会社 社外取締役
1995年にシドニーで設立したViator社の創設者であるとともに元会長兼CEO。世界初のオンライン現地体験ツアー予約専門サイトを開始し、以来マーケットリーダーとしての地位を確立。2012年から2018年にかけてメルボルンを拠点とするオンライン旅行会社Rome2rioの会長兼CEOを務め、その間に同社のオンライントラフィックを毎月3万人から1,500万人を超える水準に増加させ、競争が激しい英語圏マーケットで勝ち抜くためのイノベーションとリーダーシップを発揮。現在も、ARIVAL、WiT、Phocuswrightなどの主要な国際旅行カンファレンスにスピーカーとして出演するなど、業界において活躍。2019年、ベルトラの社外取締役に就任。